MULTUMの歴史

大阪大学でのMULUTMの開発の歴史

大阪大学では,一号機MULTUM Linear plusをはじめとして,既に10台以上のマルチターン飛行時間型質量分析計を開発している.

歴代のマルチターン飛行時間型質量分設計

MULTUM Linear plus

一号機.4個の円筒電場と28個の四重極レンズで構成されており,彗星探査ロゼッタミッションに搭載する質量分析計のラボラトリーモデルとして製作されたもので,真空容器の大きさは60 × 70 × 20 cm,分析部の大きさは40 cm × 40 cm(扇形電場の軌道半径が50 mm)である.イオンを501.5周回(飛行距離644 m)させることに成功し,電子イオン化イオン源でCO-N2のダブレットを測定し,飛行時間型の世界最高となる分解能35万(m/z 28, FWHM)を得ることができている

MULTUM II

二号機.探査機への搭載のためにはさらなる小型・軽量化を図る必要があり,四重極レンズを無くして4個のトロイダル電場のみからなるイオン光学系を採用した装置.生体高分子の測定や,イオン分子反応の観測などが出来るよう改良を加えた.マトリックス支援レーザーイオン化法(MALDI法)と組み合わせて性能評価を行い,アンギオテンシン I(m/z 1296)で分解能7万以上(70周回)が得られ,生体高分子の測定でも有用であることを示した

MULTUM-TOF/TOF

マルチターン飛行時間型質量分析計(MULTUM IIと同じ光学系)と二次曲線場イオンミラーを組み合わせたマルチターン・タンデム飛行時間型質量分析計.ペプチド,タンパク質,脂質,天然物などの構造解析を目的として開発したものである.高分解能プリカーサー選択と高エネルギーCIDが特長.

MULTUM-IMG

イオン生成が行われる試料表面上における物質の局在状態を,質量に基づいて観察できる質量顕微鏡.MULTUMの完全収束性を活かして,イオン源で生成したイオンの像を検出器にそのまま投影するとともに,飛行距離を稼いで高い質量分解能を得る.

MULTUM-S

「MULTUM II」のイオン光学系を1/2に縮小した(扇形電場の軌道半径が25 mm)装置であり,マルチターン飛行時間型質量分析計のさらなる小型化を目指した装置である.学内の汎用工作機器を用いて自作したもので,小型でありながら多重周回により分解能5000以上が得られることを示した.

MULTUM-S II

JST大学発ベンチャー創出推進事業で,「MULTUM-S」のイオン光学系を基に実用化を目指した装置.真空排気系や制御系込みでサイズは50 cm × 50 cm × 50 cm以下,重量は25kg以下でありながら,質量分解能は3万以上が達成できる装置.